1月18日(無職1日目)

 

 

 

 

 

 

 仕事を辞めた。無職になった。社員寮を出たので、一時的だが住所も無くなった。

 電車に乗って区役所に転出届を取りに行く。私服だったので、なんとなく休日のような気がしていたが、今日は月曜日だった。皆んなさぞ気が重かろう。電車を降りれば顔も忘れてしまうような自分にとっての有象無象に、一つ残らず過去や未来があることをふと恐ろしく思う。

 

 天気が良かった。雲のない空を見ると、くるりの「魔法のじゅうたん」を聞かねばならぬという気になる。あれを聞くと臓器が透明になるかんじがするのだ。

 

 区役所にて手続き。つつがなく名古屋脱出。転出しただけで、何処にも着地していないので、ますます存在が不安定になってしまった。住所不定、無職、25歳。何処のものでも無くなった体。これからどうなるのだろう。

 

 職場から2度ほど電話。退職代行業者に、電話は絶対にとらないようにと言い含められていたので、無視する。本屋でいろいろな心理学の本の背表紙を眺め、嫌なドキドキをやり過ごした。職場に残してきた内通者から「◯◯さん(人事の方)が、よくあることだから慣れたし耐性ついてる、って言ってました」という連絡。そうか。私の勇気も決断も、彼らにとっては何でもないことなのだろうと思った。怒りも、呆れも今はなく、ややほっとする。

 

 午後からカラオケにて作業。捗る。ウンウン言いながらパソコンと向き合うこと4時間程度。机が低いため肩や首が聞いたことのない悲鳴を上げはじめ、これ以上は危険と判断し、作業中止。撤退。

 

 夕ご飯。チルドの餃子。餃子の美味しさは中身ではなく焼き方にこそ宿ると知る。

 

 夜行バスに乗ることになっていた。友達に、バス乗り場まで送ってもらう。無言。じゃあしばらく、元気で、またすぐにと言って別れる。

 夜行バスに対しては他にないときめきを感じている。野生の動物みたいに息を潜める人々が好きで、電気を消した車内に、カーテンの隙間から潜り込んだ光がはしるのが海底みたいで好きだった。狂ったように東京に通っていたのも、今思えばその高揚に触れるためだったのかもしれない。

 

 首の後ろ側から柔らかな眠気がやってくる。もうじき電気が消える。それではおやすみ、元気で、また直ぐに。