3月15日

 

 

 

 

半年と少し続けたバイトを辞めた。

今までのバイトは一方的な連絡だけで辞めたり、なんとなくシフトを削ってフェードアウトしたり、何も言わずに突然行かなくなったりしていたので、最終日にどういう顔をしていれば良いのかよくわからなかった。

あまり話したことのない早番のパートの方が、ピアスを見せて欲しいと申し訳なさそうに言うので、私はマスクを外して舌を見せてあげた。その人は本当にあいてるんだねと言って満足そうに帰っていった。バイトの人たちはみんな悪い人ではなかったが、総じてこういう人たちだった。みんな私の顔と名前くらいしか知らないだろうし、私も1ヶ月も経てばここの人たちのことはほとんど忘れてしまう。

 

 

家に帰って、換気扇の下で普段は吸わない煙草を吸って、チョコを食べた。

 

 

 

 

 

 

 

3月14日

 

 

 

 

 

 

 

母親のラインをブロックした。そのための操作はあまりに呆気なくて、なぜ今までそうしなかったのだろうと思った。

 

深夜に送ったメッセージに怒涛の返信があった。帰省の前日に、栄えた場所で観劇の予定があると伝えたら、流行病のことがあるので行くのを止めろと、私に病気をうつして殺したいのかと言われた。母は被害妄想の強い人だった。誰かに監視されていると言って発狂したり、盗られたものなど何もないのに空き巣に入られたと言って家の鍵を変えたりする人だった。

 

人生で一度だけ母を殴り返そうとしたことがある。気持ちだけは前のめりだったので大丈夫だと思ったが、握った拳に力は入らなかった。他人の顔をノーブレーキで殴れる人間は私とは全く精神の作りが違うのだとその時に初めて知った。ささやかな反撃を受けた母は案の定激昂し、殴るなら殴れと叫んで私の顔面を殴打した。母は中学の教師で、私はもう23歳だった。

 

10件以上連投されたメッセージには、呑気すぎて呆れるだとか、世間に後ろ指を差されるような真似をやめろだとか、書いてあるだけで、私が病気に罹ることを心配するような文言は一つもなかった。母の度を越した過干渉は愛から来るものだと信じていたが、つまりはそういうことだったのだろう。

 

私はそれにそうですかわかりました。では残念ですが今回の帰省は見送らせていただきます。とだけ返信した。そうして、ラインをブロックし、実家の電話と母の携帯の番号を着信拒否に設定した。簡単なことだった。何故もっと早くやらなかったのだろう。私は家も、仕事も、資格も、趣味も、友達も、沢山ではないが金も、全て持っているのに、母親が消えたところでどうにかなってしまうような人生なんか歩んでいないのに、今まで何に怯えていたのだろう。

 

私は来週引っ越しをする。手伝いは20年近く前に離婚している父に頼んだ。引っ越し先は、母には伝えていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

3月8日・9日

 

 

3月8日

 

今日明日を労働の日とする。

昨年の夏頃から6、7時間程待機すれば時々大金が手に入る仕事に就いているのだが、ここにも疫病騒ぎは波及しているようだ。今までお金なんか使った分稼いだらエエねんというスタンスで生きてきたがこの調子だとそれも厳しい。月給制の浸透した世の中で(貰えるかどうかわからない)日払いの給料をあてにした生活は少し辛いものがある。

 

3月9日

 

昨日とは別の場所での労働。床に落ちたパチンコの玉を拾い集めたり玉の詰まったパチンコの台を叩いてなおしたりする作業に従事する。お客様の年齢層が高いのでよくあることなのだが、そのうちの1人から「ジジイがオシッコ漏らした!」とタレコミがあった。要らないタオルとゴム手袋と消毒液を持って現場に駆けつけるも、それらしい痕跡は見当たらない。

「お待たせいたしました。何処でしょうか」

「ここやここ!ビシャビシャやろ!」

床は乾いていた。不審に思いつつも取り敢えず指摘された場所を拭いたところ、満足そうにされていたので解決とする。その後別のお客様に「ジジイがオシッコ漏らしよったやろ!ズボンまで染みとったわ!」と声をかけられたが、店内にそんな人は居なかった。幻覚だろうか。立地が立地なので、特殊なハーブのようなものが流行っていたとしても別段驚かない。

 

その後、手持ち無沙汰になりマグロのごとくホール内を周遊していたところ、お客様に自作のカセットテープと電話番号を渡される。(写真)

 

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一般人がこんなにおもしろくて良いわけがない。

此処での労働も残すところ数回だが、特にこれといった未練はない。

 

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勘弁してくれ。

 

 

 

 

 

 

3月6日

 

 

 

友達(元フォロワー)の物件探しに付き合う。地域の家賃相場は6万前後と私の感覚からすればやや高いが、風呂とトイレは別、リビングスペースも8畳以上、さらに治安の良い立地を考えるとかなりお値打ちと言えるだろう。馬小屋の如き居住スペースと駅から徒歩100年の距離を誇り、同じ棟で傷害事件まで起きた我が家とは家賃が倍近く違うとはいえ雲泥の差である。候補を2つまで絞りこんでとりあえず保留にする。判断は明日に持ち越すことにする。

 

一仕事終えたので(私は横に座って寝たりしていただけだが)焼肉を食べることにする。貧民の私にとって牛肉は月に一度食えるか食えないかといったところの高級食材なのでここぞとばかりに腹に貯めておいた。途中結婚の話題になったが、別段しなくても構わないということで決着。アメリカの少年の仕草を模したハイタッチをする。

 

肉を食べたら甘いものを食べなければいけないのでデニーズに行きパフェを食べる。友達(元フォロワー)と出会った日から今日までのラインでのやりとりを振り返る。

 

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8月4日にパソコンが急逝したとの記録あり。

 

 

 

3月5日

 

 

フルーチェを20人前作って3人で分けて食べた。人は8人前のフルーチェを1日で食べ切るとすこし具合が悪くなるということがわかった。

 

作業をしつつNetflixで「あいのりAsian  journey」シーズン1を鑑賞。恋愛リアリティーショーと銘打たれた番組で力強い掌底打ちが拝めるとは思わず、感激。あいのりは格闘技番組であると知る。

 

故あって茨城の姉の家で数日暮らしたが、今日深夜バスで岐阜に戻ることになっていた。最寄駅まで姉・姉の彼氏・猫がお見送りをしてくれる。猫は車に乗せられると動物病院へ行くのでは……という猜疑心からか急に大人しくなるので、思う存分おまんじゅうにさせていただいた。改札を抜けるとき「切符なくすなよ」「また来いよ」と言われた。多分どうせまたすぐ来る。

 

東京は23時を過ぎても駅に人が居てすごい。ここにいる人のどれくらいが宇宙から見た自分たちの営みがとるにたりないものであることを自覚しているのだろう。

 

バスに乗る。最後尾の上、隣に誰も居ないので良かった。疫病騒ぎの波が至るところに寄せている。

 

 

 

3月3日・3月4日

 

3日

磯丸水産で朝食にした。アルコール摂取のタイミングとしては人生最速かもしれない。その日は数点の飲食店を梯子したが滞在時間の割にさほど食べなかったので完全に嫌な客になってしまった。 

 

歯列矯正のメンテナンスのために歯医者に行った。人間に対する警戒心が薄いため歯医者や美容院の施術中かなりの確率で寝てしまう。今日も重要な説明を受けながら居眠りをし、歯科衛生士のお姉さんに「大丈夫ですか?」と心配される。あまり大丈夫ではなかったが「大丈夫です」と答えた。

 

満員電車は自力で立たなくて良いので嫌いではないが、それなりに食事をしたあとだったので人の数に酔ってしまった。北千住駅で数度空ゲロを吐き帰宅。

 

お姉ちゃんの家には犬と猫が1匹ずついるのだが、犬の方は1秒もジッとしていないので、良い。抱き上げるとL字型に反る。猫の方は毛が長くて大きい。

 

矯正のマウスピースが痛い。どうして高い金を払ってこんなに嫌な思いをしているのだろう。

 

 

4日

温泉施設に行く。温泉は良い。サウナも良い。岩盤浴も良い。意味もなく汗をかく行為は世の中でもかなり好きな営みの一つだ。

 

温泉に入っていた男子大学生集団のジャンケンの掛け声が「ホイ!ホイ!ホイホイホーイ!」だったので驚いた。地域性を感じる。

 

近くのアウトレットモールに行く。フワフワのものをめちゃめちゃに口に入れて全部終わりにしたいとの思いから、フードコートでパンケーキを購入。生クリームが嫌がらせのような量添えられていたのだが、甘みが少なく軽めのそれは口に入れた瞬間に消えたため「虚像やんけ……」と思った。

 

 

 

 

3月2日

 

 

ミッドサマーを見に行く。前評判では大層こわいとのことだったので警戒してミッフィーちゃんのフィギュアを持参した。

映画が始まるまでに時間があったので、下着を買ったあとサンマルクカフェに入った。サンマルクカフェのアイスコーヒーは人類に恨みでもあるのかというほど苦く、氷が多かった。

 

劇場では、有事の際にすぐに逃げ出せるように入り口付近の席を確保。平日とコロナ騒ぎがあいまって人は少なかった。始まる直前にお友達から「ミッドサマー無理やと思ったら(途中で)抜けや」とラインが来たので、逃げるのに便利な位置にいること、ミッフィーちゃんを連れてきたことなどを伝える。

 

肝心のミッドサマーだが、序盤のグロシーン以外は特に苦痛もなく、時には声を出して笑いそうになることもあるほどだった。ショックに備えてミッフィーちゃんをカーブを投げるときのやり方で握っていたが特に出番も無く、完全に杞憂に終わった。2席あけて横のポップコーン爆食いおばさんの存在が心強かったのも最初だけだ。本編よりも口コミと自分の感想の乖離の方がよっぽど恐ろしい。違うミッドサマーを見ていた可能性すらある。私のだけ「絶対に笑ってはいけないホルガ24時」だったのかもしれない。

 

帰宅。今日の夜から数日部屋を開けるので冷蔵庫の危険物(賞味期限の近づいた食品)をまとめて処理した。しばらく放置していた摘み菜は花が咲いて別の植物のようになっていた。食べられるかわからなかったので花だけ切り落として炒めて食べた。